G2DOKKA-WANDERLUST

ドイツ発。親子3人車中泊放浪旅のキロク

日本ードイツ大陸横断_シベリア道中⑱ランクル誘拐事件(完) 結末の追記

約1ヶ月ぶりに、車が戻ってきました。
この取引の詳細は、ここでは書けませんが
今日は悪夢のような一日でした。

明け方、車がこの街のある所に乗り捨てられてました。

車はほとんど無傷だったけど、中身がひどい。
多分売ろうとしたんでしょう。

車内に組み込んだ棚やら仕切りは見事に崩れされ、

物色され荒らされ終わった物たちが

むちゃくちゃにぶち込まれてるだけでした。



食べ物がほとんど持ってかれた。

日本の米までも盗まれるなんて。

あと先日モンゴル用に5個ずつ買った2種類のインスタント麺が、各2個づつ

持ってかれたり、これは取られたでしょと思うものが、意外にも残ってたりして

謎などろぼうです。

服もノースフェイスとか、そういうブランドがあるものが根こそぎ。

1度も着てないレインコートとか、南部鉄器の鉄瓶、フライパン、鍋。。。

ほんと、言葉も出なかった。

片づけ直すのが、ホントに辛すぎた。

今車は警察の駐車場に置いてあるけど、ここはロシア。

100%安全な場所とは限らない。

とにかく1日も早く出発できる状態に整えて、この街とはおさらば
したいところです。

誘拐事件はこれにて完結。

次行こう、次!!!

 追記 


あのあと、結局どうなったの?と聞かれることもあったりして
もう何年も前の話なのですが、お話ししても良いかと思うので
事件の結末を追記したいと思います。





今思い返せば、あの事件の黒幕であっただろうクホという人物。

連絡は不規則ながらも、私達に協力してもらっていたロシア人の友達とは
繋がっていた。

前出の記事にも書いたが、私達は出国の期限が迫っていたということもあり、
ランクルはもう諦めて違う車を買うことに決めていた。

ロシアのハイエース(と勝手に名付けたが)
UWASという、無骨でかっこいい四駆のワンボックス。

値段の交渉も終わり、週明けにお金を持って行くと約束して市場を後にした。

心機一転。

再出発に向けて気持ちを切り替えて、やっと前向きになったその日の夜。

しばらく連絡が途絶えていたクホから、友達の携帯に連絡があった。

「車が見つかったらしい。○○ルーブル払えば、返すと言っているが、
どうするか??」

この連絡にも驚いたが、さらに驚愕だったのが
さっき中古車屋で交渉した車の値段と、ランクルの身の代金の値段がまったく
同じだったことだ。

なにこれ。

みんなツルんでるの??

ザッツロシア、ってか?

こんな頻繁に車の盗難が発生する地域では、
中古車屋と窃盗団の関係はズブズブだろうし、そこにきっと警察までも
絡んでるだろう。

イルクーツクその界隈では、私達のランクルのこと知らない人はいなかったと
思うし、 私達の支払い能力が中古車屋で見透かされ、クホが絡む窃盗団に
連絡が行ったとしか思えない。

金はもちろん3か所で山分けされるのが筋だろう。



また振り出しに戻ってしまった。

やっとの思いで別れを決意したあの子が、この町のどこかで俺を待ってるって?

やめてくれーーーーい。

そんな野郎の心境だ。

心が掻き乱れ、髪の毛が逆立つぐらい怒りで震えた。

私達は数時間話し合い、車検証と車両の一時輸入の書類が絶対に返ってくること、
そして車の中身がちゃんとある事を条件に、買い戻しの交渉をすると伝えてもらった。

書類が揃ってなければ、買い戻したところで乗って出国できないのはおろか
車より高い税金を払う羽目になるのだ。

この際、自分たちの持ち物は一度すっぱり諦めたので、あればラッキーぐらいの
気持ちで、 なにはともあれ車体と書類。



次の連絡があったのは、翌日。

話は早かった。

書類もそろっているし、多分無くなったものもあるだろうけど、車の中身は
大体そろっているという。

金額も、悔しいけどあちらの要求通り払うことにした。

身代金はクホが直接アパートの下に取に来ることになった。。。。

って、オイ。

お前は何者だ。

警察がグルなのは、この事を聞いて確信に変わった。

だって、

私達が通報すれば、こんなヤツ一発で捕まえられるはずだ。

しかしこの男は、今回もそういう事には一切触れず、大金を取りに
来ると言うのだ。

私達の疑いはどこまでも果てしなく、心配事は尽きなかった。

もし、お金だけ持ってかれて、車が戻ってこなかったら?
車が戻ってきたとしても書類がなかったら?

その質問に、クホはこう答えた。

「お金を払ったからには、絶対に車が戻ってくることを保証する
 もし戻ってこなかったら、警察沙汰にすればいい」

つーか、もうこの瞬間が警察がらみの事件なんですけど???

もしくは、アンタが警察なのか?


私達はもう正常な思考回路では、この違和感だらけの事件を対処することは
できなかった。

もう、アホになるしかない。

分かったよ金くれてやるよ、クソがああああああ!!!!



。。。命が、あるじゃないか。




 現金を用意するには3日掛かった。

ロシアではあまりにもの大金で、1日に取引できる金額をマックスで 引き出しても
それぐらいの日数が必要だった。

 しかも、1つのATMで取引できる限度額もあったりで、この3日でイルクーツク中の
あらゆるATMで これでもかというくらいの金を引き出した。

もう、途中から何をしているのか、訳が分からなくなってきた。

身の代金のお金を用意しておりますのだぞ!

ウソでしょ!

夢ですか、コレ?

恐ろしすぎる。。。



決戦の日。

ベットの上に札束を並べた。

こんなに苦労して手に入れた大金が水の泡になるかもしれない恐怖に
慄きながら、クホに連絡を入れてもらい、いよいよ取引の手筈が整った。



嵐の夜だった。

突風が吹き、激しい雨が窓を打ち付ける。

部屋には私達の他に数名が、緊迫した空気を携えながら床に座って居る。

怖い。

なんだけど、笑っちゃうほど、このシチュエーションが絵になりすぎている。

おい他人事じゃないんだぞ、と思いつつ、それでもやっぱり
映画のワンシーン並みに、完璧な演出じゃないか!

雷鳴ってるし、外で!!

そんなことを思ってる最中に、友達の携帯の音がついに鳴った。

(ちなみにこの着信音のメロディー、今だに覚えてる。
聞くとあの時のすべてがフラッシュバックするので、二度と聞きたくないけど)

 「あ、こんにちは。今着いたので、あなた一人で降りてきて下さい。」

電話を受けている彼女の表情が凍り付いていた。

私達が渡しに行くべきだったけど、これはクホからの要求だった。

彼女は意を決して外へ出てゆき、無事に任務を遂行した。

帰って来た時は顔色がもっと悪くなり、腰が抜ける勢いで床に崩れ落ちた。

私達は一斉に彼女の元に駆け寄り、みんなで抱きしめてあげた。

もう、申し訳けないやら、怖いやら、気持ち悪いやら、いろんな思いが
とッ散らかってどこにも収まらず、気絶するかと思った。


少し落ち着きを取り戻した彼女から、今後の展開が告げられた。

まず、今から24時間以内に犯人はこの町のどこかに車を乗り捨てる。
その連絡がクホに入ったら、クホは彼女に連絡すると約束した。

場所を特定できたところで、車を一目散で取りに向かう。

この24時間で運命が決まる。

金も持ってかれ、車も戻ってこない



車が手元に戻ってくるか。


 うわーーーー

思いだしただけで、バクバクしてきた。

泣いても笑っても今日が最後。

もし戻ってこなかったら、私はとにかく色々忘れ休息する為に

日本に一旦帰るつもりでいた。


「電話だけは繋がるようにしといてね」

彼女はそう言うと、自分の家へと戻って行った。

そして帰り際、こんなことも言っていた。

「こんな事件に巻き込まれるのは二度とゴメンだけど、さっきの一件で
私は今まで生きてきた中で、最高に自分に勇気があると思った瞬間だった。
あたし、今、最強!」

確かにそうだよ、ナジャさん。
 あなたは、私が出会ったロシア人女性の中でも、ダントツで最強だったよ。



それから数時間後。

電話が鳴ったのは、翌朝の4時だった。

寝付けそうにない時間と格闘し、やっとウトウト眠りに入れるかと
思ったまさにその時だった。

「電話があったわ!
今からタクシーですぐそっちに向かうから。5分で外に出てて!!」

タクシーはすぐにやって来て、私達は犯人が車を乗り捨てたという通りに
向かった。

まだ薄暗い、朝もやの中。

道を走っているのは、私達が乗ってるタクシーだけ。

昼間だったら、バス通りにもなるだろう比較的大きな道に差し掛かった。

そして、進行方向の先に、不自然に止まってる白い車を 見つけた。

私はもうすでに、タクシーの中で泣いていた。



1カ月ぶりに対面した、私達のランクル

鍵はかかっておらず、エンジンがまだ温かかった。

ほんの数分前に、誰かがこの場所にこの車を乗りつけてきたんだ。

そんな事を考えただけで、吐き気がしてきた。

 マーはすぐさまダッシュボードに入っていた書類を確認し、安堵の表情を
浮かべた。

ナジャともう一人付き添いで駆けつけてくれた友人は、乗ってきたタクシーで
また家へと帰ってゆき、私たちは再会したランクルと共に、その足で
警察署へ向かったのだった。

 

というのが、車を取り戻すまで数日間の回顧録です。

今思えば、すべて思い出話として処理ができるが、この最後の数日間は特に
刺激が強く、けっこうなレベルでしんどい日々だった。


そういえば車の鍵は、開錠のプロがやったんでしょうね。
自分たちが持ってる鍵がもう使えなくなってしまった。


それと、車上荒らしにあったりした場合のリスク軽減として
現金で10万円ほど、5か所ぐらいに分散して隠しておいたんだけど
それら見事に全部無くなってたから、ホント全部ひっくり返して、
剥がして、解体して、隅々まで見たんだろうね。

たとえば、救急箱の中にあるバファリンの箱の中とか、分厚い辞書の
間とか。

 それらをいちいちまた元に戻して行く作業が、本当に気持ち悪かったし
悲しい気持ちでいっぱいになった。


正直、この事件は悲惨だったけど、話のネタにはなる。

私の人生の中で起きた様々な事件の中でも、トップクラスの大ネタだ。

ドイツでも新聞社の取材を受けたことがあるぐらい。

しかし、経験値は確実に上がったと思う。

あの激辛激苦激酸っぱの日々を乗り越えたおかげで、予想外の耐性が着き

その後の人生に一役買っている。

と思えば、ホントお高くついたけど、良い経験だったのかなと思う。

車も戻ってきたし、命が危険に晒されたわけでもないし、

なんだ、万々歳じゃないか!

 

おわり