G2DOKKA-WANDERLUST

ドイツ発。親子3人車中泊放浪旅のキロク

日本ードイツ大陸横断_⑳ホーストリップ

ロシアの旅を終える前に、この旅で一番楽しかったホーストリップのお話。




かれこれ1ヶ月以上も前の話になりますが。。。

このツアーを企画したのはマーカスの両親で

彼らの旅の前半、1週間だけ合流して馬ツアーに出掛けた。

 

前にも書いたけど、ロシア旅行は短期間でも
宿泊先などの予定を全部FIXしなくてはならない。

 

なので彼らの旅を1ヶ月丸ごとオーガナイズしてくれたサーシャというおじさんと、

ドイツ語通訳のディマ君という学生の子合わせて6人で、

まずはイルクーツクから200キロ離れた、ブリヤートが住む集落に向かい

その日は馬を貸してくれるブリヤート人一家の敷地内にテントを張って

泊まらせてもらうことになった。

夕暮れ時その敷地の馬広場みたいな所に、明日から行動を共にする
馬たちが、続々と運び込まれてきた。

翌朝。

ブリヤートのおじさん二人が早速馬に蹄をつけたり、鞍をかけて準備をしだした。

4日間にわたる長旅なので、このおじさんたちも含む計8人分の食料やら、

テントやバックパックまで、全部この馬たちに積んでいかなくてはならない。

しかもその上に人まで乗せて山を登る馬の事を思うと、気の毒でしょうがなかった。

さて、準備が整い敷地内で乗馬の練習でもするのかなぁと思いきゃ

「はい、これ君の馬。今すぐ乗ってレッツゴー」

まさかの展開!

今日生まれて初めて馬に乗る超初心者なのに、練習もせず

とりあえず馬に乗せられて手綱を渡され

「右に曲がるときは右の綱を引いて、左の時は左を引く、

止まりたい時は両方引いて、たたくなり蹴るなりすればまた進むから」

それだけ言われて、一同なんと出発してしまった。

まじっすか!!!

これがもし日本だったら(という発想自体無駄だけど)、まず馬に乗る練習は

絶対すると思うし、こういう類の旅には保険があったりするんじゃないかと思う。

だけど、さすがロシア。

ぶっこみです。

ちなみに費用は5日間で一人約2万円ぐらい。

そしてこのツアーは、観光客向けのツアーとは違って

サーシャが個人的に知っているブリヤートの人に頼んだものだったので

外国人慣れしていない村人の冷ややかな目線を気にしながら

私達は集落を抜け、村の後方20キロのところにある山へパカパカと歩いていった。





見た感じその山は、それほど高くなくてなだらかな優しい山に見えたので
馬で登るにはちょうど良いんだろうと安心していた。

 

ところがどっこい。

まさか馬用の山なんかでは決してなく、普通に人間が登る山道を
巨大な馬とお連れしますツアーだった。


しかも断崖絶壁みたいなところまであって、

これでいきなり馬が暴れだしたら、確実に死ぬでしょうという所も

通過しなくてはならなかった。

あのー、ヘルメットとか一切ないんですけど。。。

道中。

休憩をする先々でシャーマニズムを信仰するブリヤートたちが

大地にウォッカを蒔いて山に感謝をする儀式が始まる。

一つのコップに入れたウォッカを、何回も回し飲みもしなきゃいけなくて、

ホントにきつかった。

私の馬は、中型の白い馬で名前は「ボロダイ」。

ブリヤート語の名前なんだろうけど、なんか頼りないなぁ。




ボロちゃんは、なかなか言うことを聞いてくれなくて、いつもビリで

勝手に立ち止まっては、草を食べたり他の馬につられていきなり走りだしたり

ほんとに困った馬だった。

これは私の技術の問題じゃなく、心の問題かもと思ったので、馬目線で優しく

行動を共にしようと心がけたけど、心を開いてくれることは最後までなかった。

やはり、技術の問題のようだ。

とにかく、徹底的に私に無関心で無表情なボロちゃんだったけど

慣れると面白いもので、初日の登山が終わるころにはコツを掴んだのもあり

すっかり乗馬が楽しくなってきていた。

次の日も猛暑の中、急な山道をグングン登り続けた。

道中アブだらけで、容赦なく馬にたかり刺しまくるので私の白いボロちゃんも

首元が血だらけになっていて、可哀想だった。

 

それでも彼は無表情にじっとり汗をかきながら登って行き、2日目には

標高2000メートルの地点まで辿りついた。

この日の夜、マーカスが付き添いの2人のブリヤートが狩りに出かけると

言うので、無理を言って連れて行ってもらった。



獲物は取れなかったけど、獲物をおびき寄せる沢山の方法や

山小屋での過ごし方など、いろいろ貴重な体験をしたらしくすごく喜んでいた。

だけど、40度ぐらいの急斜面を馬で一気に駆け下りなきゃいけなかった時は

さすがにビビったらしい。

 

狩人たちの山小屋


                       
この山は、馬に跨る狩人が沢山いる。

私たちの馬も、こういう狩人が訓練して慣らした馬だったんだろうと思う。

だから、初日に何の練習もしなくてここまで来れたんだろう。

山では狩人はとても尊敬される存在らしく、まず彼らに会ったら

自分達が食事をしている時でも一旦中断して、まずはお茶を入れてあげて、

相手が望めば食事も分けあう。

狩人同士はもちろん、偶然出くわした旅人に対しても、

これは山で活動する者の礼儀作法で、これが出来ない失敬者は

狩人界で評判が悪くなるらしい。

私たちが食事の準備をしていると、3人の狩人がやってきた。

毛皮で出来たベストを着ている、いかにも

マタギ・オン・ザ・ホース。

「かなり撃って来ましたけど」的な空気をぶんぶんに醸し出してる、

ブリヤートイカつい3人組。

私達の輪に加わり、捧げたお茶を飲み干し、

くわえタバコをペッっと地面に叩きつけて、「じゃあ行くわ」と帰り際、

熊の生肉とか出てくるのかと思ったら

かばんの中から取り出し差し出されたのは、大量の塩漬けしてある魚だった。

自分たちの食料の残りだったらしい。

アレ、あれれれれ、魚なんすか?

なんだか、なんともいえない残念な気持ちになった。

というか、私が何かに期待しすぎだっただけか。





最後に写真を一緒にとってもらい、彼らはまた馬に跨り夕日の中に消えてった。

手ぶらで帰ったら、母ちゃんに怒られたりすんのかなぁ。

翌日から、今度は山下り。

ここでもまた断崖絶壁の斜面があって、ボロちゃんは容赦なく駆け降りようと

するので、ここは馬を降り綱を引いて一緒に歩いて下った。

登りより降りるときのほうが、何倍も怖い。



ようやく山を抜け、村が見渡せる草原が目の前にブワっと広がった瞬間
馬たちも帰りを喜んだのか、なんと一斉に走りだした。

どんなに綱を引いても止まってくれなくて、しがみつくように乗っていたら

だんだん波に乗ってるような感じになってきて、最終的には走ってる馬に

乗れてしまっている自分がいた。

この3rdギアが、実は一番乗り心地が良く楽で何よりも一番楽しい!

落ちたら危ないけど。

だけど、これは他の馬がみんな走り出したから、ボロちゃんもつられて

走たのであって、1stから3rdに速度をかえたり、急ブレーキで馬を

ちゃんと止めたりするにはまだまだ練習が必要。

それができるようになったら、もっともっと馬と遊べるんだろうな。

ドイツに帰ったら、乗馬場が近くにあるみたいなので

もうちょっと練習してみたいな。

それから、普段山に登るときは足元を見ながら登るのでなかなか景色が

目に入らないんだけど、馬登山は座ったまま自分を運んでくれるので

ずっと空を見たり、遠くの景色を眺めながらも進んでいくのが

結構心地良かったです。



あと、馬って立って寝るんだという事も初めて知りました。

そんなこんなのホーストリップ、ドイツの両親とも2年半ぶりに再会し

今度は家族になって旅が出来たこともあって、ロシアでの一番楽しい

思い出になりました。